こんにちは、「子どものみかたブログ」です。
今回は、2025年7月の検討会にて公開された試行事業としてこの事業を実施してきた事業所の最新資料をもとに、「こども誰でも通園制度」の本格実施に向けて見えてきた課題と対応策を掘り下げます。
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制度の理念は素晴らしい。でも本当にそれ以外の代替案はないのか、その理想に、現場は耐えられるのか?子どもの安全と発達は保障されるのか?
本格実施の前に、そんな、少し重たい問いかけを投げかけておきたいと思います。
🌱 制度の出発点:「すべての子に育ちの場を」
「こども誰でも通園制度」は、0~2歳の未就園児(全国で約6割)が、保護者の就労に関係なく保育の場を利用できる仕組みです。
虐待の予防、育児不安の解消、そして子ども自身の発達保障──
目的は明快で、社会にとっても非常に重要な一歩です。
「どの子も孤立させない社会へ」
「家庭という小さな閉じられた空間の中にも、支援が届くように」
家庭養育を孤独にされている方々には、光が差し込むような制度とは思いますが、子どもの安全と発達が保障されてこそです。それらのことについて、試行的事業として、こども誰でも通園制度を実施した事業所の様子から、考えてみましょう。
🔍 実証から見えてきたリアル:制度の光と影
令和6年度に実施されたモデル事業では、全国で試行事業が行われました。
👍 喜ばれた前向きなポイント
- 「家以外の安心できる場所ができた」(保護者)
- 「多様な子どもと関わる中で自分も育った」(保育者)
子どもたちも、他者との出会いを通して表情が変わり、少しずつ遊びに参加する姿が見られました。
⚠️ しかしその裏にある、深刻な課題
制度の理念に共感する現場ほど、苦しんでいます。
以下に、その「声になりにくい課題」を整理します。
🧩 保育者の現実:「育てたい」気持ちが追い詰められる
問題 | 実態 |
---|---|
子ども理解が浅くなる | 利用時間が短く、日数も不定期なため、「気づく前に次の子が来る」。→ 発達の微細な変化に気づきにくく、対応が遅れる。 |
業務過多と時間切れ | 登降園の対応、保護者対応、記録に追われ、「遊びこむ時間がない」と保育者が嘆く。 |
情報の断絶 | 引き継ぎや会議の時間が確保できず、誰が何を知っていて、どの子がどんな状態か不明なまま日々が過ぎる。 |
「もうこれ以上、受け入れられない」 | 保育の「量」が増える一方で、「質」を保つための人手も時間も、補われていない。→ 子どもを拒むことへの罪悪感に苦しむ声も。 |
🧩 制度運営の脆弱さ:「形だけ整えた」感がある
問題 | 実態 |
---|---|
制度が現場に合っていない | ・利用者数が毎日バラバラ・子どもによって支援の重みが違う→ 固定加配や画一的な基準では柔軟に対応できない。 |
他制度との混乱 | 地域型保育や一時預かりとの違いが曖昧で、保護者も自治体職員も「よくわからない」まま利用。 |
保護者とのズレ | 「短時間だから、丁寧な関わりはいらないでしょ?」「子どもは泣くけど預かってくれればいい」→ 支援とサービスの線引きが曖昧なまま。 |
管理コストが高い | 請求事務、記録、保険、アレルギー管理…→ 保育時間を削ってまで、紙とにらめっこする現場。 |
🆘 このままでは「制度疲弊」が先に来る
この制度は子どもと家庭のためにあるべきですが、それを支える保育現場が消耗し、持ちこたえられなくなる──そんな危機感が、今現場で高まっています。
「誰でも来ていい」制度が、
「誰にも来てほしくない」と思われたら、本末転倒です。
あえてなのかわかりませんが、この試行的事業を実施してきた事業所の具体的な保育体制が記載されていません。どのような保育体制で、持ち帰りは無かったのか、サービス残業はしていないのかなど、一番気になる保育士の負担について報告されないというのは、どうなのでしょうか。
具体的にアンケート結果を見てみると、、
保護者への連絡・欠席連絡等の事務仕事(n=409) 53.5%が増えた
こどもの対応にかける時間・労力(n=409) 72.1%が増えた
保護者対応にかける時間・労力(n=409 67.7%が増えた
となっていて、逆に
20%の方が、休憩時間が減ったと回答しています。
負担が増えたのなら、どのくらい増えて、残業代はきちんと支払われているのか、この制度実施の前に調査をすべきではないでしょうか。
※具体的な保育体制については、概要版ではない報告書こちらの53ページからありました。大変申し訳ございません。ただ、具体的な休憩時間や残業時間残業代、持ち帰りの有無、休暇の取得などについては無いようです。
🔧 それでも進めるために:本格実施への対応策
✅ 保育者の支援と配置強化
- 柔軟な加配(変動対応型)
- 専任の調整役(コーディネーター)配置
- 負担軽減のためのICT導入と研修支援
✅ 家庭との関係づくり
- 利用前の丁寧な面談、親子通園の導入
- 育ちのエピソードを共有する文化の醸成
- 支援を「指導」と捉えられない関係性づくり→保護者支援のスキル向上
✅ 制度の磨き込み
- 他制度との違いを明示する現実的で実施可能なガイドライン作成
- 小規模自治体へのモデル導入支援
- 利用実態のモニタリングと制度の見直し→安全面と子どもの発達の保障の観点から、今後も定期的に
✨ 最後に|「制度の理念」は守れるか
この制度が目指すのは、「孤立を防ぐ」こと。
保護者の方は、8割以上の方が、子育てを楽しいと感じるようになったと回答しています。
この結果は、保護者にとってはとても前向きで、有効な制度だったということを示しています。
しかし逆に今、最も孤立しかけているのは皮肉なことに保育の現場かもしれません。
それが、今回の実証から見えてきた、最大の教訓です。
検討会参加の委員の方もおっしゃっていましたが、事業所同士の横の交流や、0-2歳児のための確実な環境の確保、0-2歳保育が未経験の園のスキル向上の機会、ある意味では通常保育よりも求められる保護者支援のスキル向上など、これらが未解決のままでは、本制度の実施はとても危ういのかもしれません。
📘 子どもと未来をつなぐ制度であるために
先ほどのアンケートにもありましたが、家庭養育支援をするため「誰でも通園」は、これからの社会に必要なしくみではあるのでしょう。
一方で、自治体へのアンケートでは、思ったよりこの制度を利用する方が少ないとも言われています。このことを私なりに考えますと、様子見ということもあるかもしれませんが、誰でも通園の制度はあるけれど、この乳幼児期の自分や相手、そしてこの世界全体を信頼していく、一番最初の大切な時期に、子どもにとって何が大切なことなのかを考えられた保護者の方もおられるのではないかと感じました。
この理念の実現には「制度=しくみ」だけでなく、「人と人の関係性」へのまなざしが必要です。
担当の保育士が継続的に働けるということも、子どもにとっても保護者にとっても安心に繋がりますし、私たちの声が、未来の制度設計に少しでも届くように、これからも現場の視点で、追いかけていきたいと思っています。
〈参考〉
保育の継続性を保つために必要なことは?

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この制度について、ぜひ皆さんの感じたことや意見もお寄せください。
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